先日放送されたNHKの『プロフェッショナル 仕事の流儀』に、国民栄誉賞に輝いた将棋の羽生善治永世七冠が登場されていました。
若い頃の映像も紹介されていましたが、当時のいかにも天才っぽい、鋭さを感じるお顔に比べると、いまは温和で、ゆったりとした雰囲気が漂っていて、円熟の域に達した人間的大きさが感じられました。
それに伴って、語られる言葉も、実に味わい深いものになっていました。
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そもそも、永世七冠ってどんだけすごいの?
ちなみに「永世七冠」というのが、どれだけすごいことなのか、簡単に説明しますと・・・。
まず、将棋には名人・竜王・王位・王座・棋王・王将・棋聖の全部で7つのタイトルがあります。(最近、これに叡王という新しいタイトルが加わって8つになりましたが、叡王にはいまのところ永世称号がありません)
将棋界というのは、ずば抜けた天才の集まりですから、一生に1回、1つタイトルを取るだけでも大変なことです。
事実、大半の棋士は生涯に1度もタイトルをとれずに棋士人生を終えています。そもそも、ライバルに勝ち抜いて挑戦者に名乗りを上げることすら至難の業。
そういう中で羽生さんはまず、7タイトル同時制覇という離れ業を史上初めてやってのけ、世間をアッと言わせました。26歳の時です。
各タイトルを保持できるのは1年間。獲得から1年経つと挑戦者が決まり、5番勝負とか7番勝負をやる。負けてしまえばそこで失冠します。
そんな厳しい戦いをしのいで、タイトルを何連覇するとか、通算何期保持するとかすれば、そこでようやく永世称号を獲得できるのです。
各タイトルで、永世称号を得る条件を見てみましょう。
・永世名人→通算5期
・永世竜王→連続5期、または通算7期
・永世王位→連続5期、または通算10期
・名誉王座→連続5期、または通算10期
・永世棋王→連続5期
・永世王将→通算10期
・永世棋聖→通算5期
どうですか?
1回取るだけでも大変な将棋のタイトル。それを、次々と立ち向かってくる強豪を蹴散らして保持し続け、永世称号を得ることが、どれほど難しいことか、よくよくご理解いただけたことと思います。
羽生さんはこの永世称号を全部取っちゃったわけですよ。
意識的にアクセルを踏む、未知のことに挑戦する
羽生さんは、先日のNHKの『プロフェッショナル』で、こんなことをおっしゃっていました。
年齢を重ねると、ブレーキの踏み方がどんどん上手くなってくるので、かなり意識的にアクセルを踏む気持ちを持つ。
いままで自分が知らなかったこと、経験しなかったこと、そういうことを経験していくことが、年を重ねれば重ねるほど大事になってくると思っています。
「羽生マジック」
という言葉があります。
周囲をアッと言わせるような斬新な手で、不利な形勢を一気にひっくり返すのが羽生さんの将棋の魅力。
そんな羽生さんでさえ、年齢を重ねることで守りに入ってしまうことを自身で強く戒めておられる。
この言葉には深く感じ入りましたね。
羽生さんとは次元の違う話で恐縮ですが(笑)、私が小説執筆に挑戦を始めたのも、同じような思いからです。
私は雑誌の編集・執筆の仕事を30年近くやってきました。
いつも新鮮な気持ち、挑戦する気持ちを忘れずにやっているつもりですが、これだけ長くやっていると、
「・・・ま、こんなものでいいだろう」
といった意識がふと頭をもたげ、ハッとすることがあります。
慣れ、妥協、マンネリ、惰性
そこにハマってしまったらもうオシマイです。
私が小説執筆を始めたのは、そんな自分に活を入れたいという思いもあったからです。
雑誌の執筆においてはベテランでも、小説執筆ではまるっきりのひよっこ。否応なく謙虚に努力していかなければなりません。
慣れ、妥協、マンネリ、惰性に陥っている場合じゃないわけです。
今回の羽生さんの言葉は、次元こそ違いますが、そんな自分の思いとも重なって、深い共感を覚えたわけです。
意識的にアクセルを踏む。
未知のことに臆することなく挑戦する。
この気持ちを忘れずに、日々の執筆活動に取り組んでいきたいと思います。
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