カズオ・イシグロ氏 ノーベル賞作家の執筆法

『日の名残り』『わたしを離さないで』などの作品で世界的人気を博し、先日、ノーベル文学賞の受賞が決まった作家のカズオ・イシグロ氏

さっそくNHKのEテレでイシグロ氏の講話が再放映されていましたが、ものを書く人間に貴重な示唆を与えてくれる素晴らしいお話でした。

●なぜ小説を書くのか

「私は小説家として、膨大な時間をかけて事実じゃない話を創り上げている。なぜわざわざこんなことをするのか。なぜ皆さんも事実ではない話を読みたいと思うのか。

私は九州の長崎に生まれ、5歳の時に両親と一緒にイギリスに引っ越した。私が日本と呼ぶかけがえのない場所がいつも頭の中にあった。しかし歳を重ねるにつれ、記憶とともに日本という世界が薄らいでいったのだ。私はただ、この秘密裏に残しておいた個人的でかけがえのない記憶を紙に書き記したかった。それが小説家になろうと思った本当の動機だった。

小説は、自分の心や頭の中にある内なる世界を人が訪れることができるように、具体的な世界を外につくる方法だ

●若さについて

「いまの自分は、20代の自分を称賛するだろう。いまの自分の方が技術的に優れていると思うが、当時の自分には、湧き上がるように想像を膨らませるパワーがあった。20代の作家にしかない独特の力だ。歳を重ねるにつれ、若い作家を羨ましく感じるよ」

●どのようにして物語を紡ぎ出すのか

「(舞台設定について)私が心がけているのは、そのアイデアを簡潔に2つ、3つのセンテンスの文章にまとめること。もしまとめられないなら、そのアイデアはいまひとつということの証拠だ。あるいはまだ熟していない。

ノートに書きとめたアイデアを見返して、その短い文章だけでアイディアの発展性や、湧き上がってくる感情があるかどうかを確かめる。あらすじ以上のものがないとダメなのだ。これなら物語を創り上げられる、と思えるものじゃないと」

●小説の存在意義

「フィクションでできることは、異なる世界を創り出すことだ。これが、小説に価値がある1つの理由だと思う。私たちはどこかで、異なる世界を必要とし、そこに行きたいという強い欲求がある。このような世界は、ノンフィクションやルポルタージュでは生み出すことができない」

「私たちが、小説に価値があると思うのは、それに何らかの重要な真実が含まれているからだ。真実とは何か。それは月並みな事実ではない。真実とは人間として感じるものだと思う。

歴史書やジャーナリズムでは、状況を伝えることはできる。しかし、ある時代のある街のある場所で、人々は飢えに苦しみ死んだという事実だけでは、人間は不十分だと感じるのだ。私たちは、どう感じたのかを伝えて欲しいのだ」

自分が小説を書く上で重要な事は、心情を伝えることなのだ。人間は社会で経済活動するだけでは不十分なのだ。心情を分かち合う必要がある。私はこのように感じた。君も同じように感じるのか? 思いが伝わるのか? 私は小説のこの点を最も大切にしている。この世界を生きていく人間として心を分かち合うことを」

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イシグロ氏の本は、現在アマゾンで品切れ状態。図書館でも予約が殺到していて、順番が回ってくるのはだいぶ先になりそうです。
あぁ、早く読みたい!

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