先日、徹夜して原稿を書いたので、ちょっと心をリラックスさたいと思い、ビデオで映画鑑賞。
選んだのは、これまた先日原作を読了したばかりの『日の名残り』。
昨年、作者のカズオ・イシグロ氏がノーベル文学賞を受賞したことで興味を持ち、一読してとても気に入ったので、ぜひ映画も観てみたいと思った次第。
慌ただしい一日を終え、さあこれからじっくり楽しもうか、と届いたばかりのブルーレイディスクをいそいそとレコーダーにセットしたのですが・・・。
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うーん、ちょっと私の凡庸な感性では、この映画のよさを捉えきれなかったかな(苦笑)。
とにかく内容が地味。大きな盛り上がりもなく、淡々とストーリーが進行していきます。
しかし、もう一回観てみたら、ジワジワ〜ッと体に染みるようによさが伝わってきました。
ニブイ私はよくあるんです、こういうの(笑)。
内容は概ね原作に忠実でした。イギリスの名家に仕えてきた執事が、晩年に旅に出て、かつて一緒に働いていた女中頭とうん十年ぶりに再会を果たすというもの。
執事に扮するのはアンソニー・ホプキンス。
この映画の彼は、バスに爆弾を仕掛けたり、人の脳味噌を食ったり、そんな常軌を逸した行動に出ることもなく(笑)、とにかく誠実で職務に忠実。世間から厳しい風評に晒される主人を心から信じて仕え、執事としては一流です。
しかし、その一方で、職務に忠実であるがゆえに、そして少々行き過ぎなくらいの融通の利かなさによって、自分の思いを素直に表現することができずに、人生で取り返しのつかない大きな悔いを残してしまいます。
私が印象に残ったシーンといえば、かつて有能な執事だった父親が失態を続け、受け入れがたい“老い”という現実を突きつけられ、葛藤するところ。
あとは、女中頭(エマ・トンプソン)とのやりとりでしょうか。
女中頭からの思いがけない告白に衝撃を受け、戸惑い、呆然とするアンソニー・ホプキンスの演技は秀逸でした。地味な役柄ですが、さすがに名優の面目躍如です。
それから、主人公の乗っていた車がガス欠を起こすシーンの夕焼けが、『日の名残り』のタイトルを見事に投影し、とても美しく映えていました。
派手さはありませんが、その分心情描写がリアルで、不器用な主人公の心の葛藤に共感する場面が何度もありました。
主人公の人生の黄昏と、父親の老い、仕えてきた主人の没落、さらには大英帝国の凋落をオーバーラップさせる構成は見事。
そのあたりは、イギリス人が観たらグッとくるものがあるのかもしれません。
また、そういう重層的な話のつくりは、小説の構成を考える際にも参考になりそうです。
『日の名残り』。この味わい深い物語を、小説ばかりでなく、映画でもじっくり堪能することができ、大満足でした。
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